寝屋川市

いっしょに来てほしい、と目でぼくは言った。すんなりと、作業員は、立ちあがった。「あら、お帰りですか」いつもキッチンのなかにいるおばさんが、そう言った。ふりむいて、ぼくは、おばさんに微笑だけしておいた。『水道』を出て、駅とは反対のほうに、歩いた。作業員と手をつないだまま、黙って。しばらくいくと、路地の入口があった。路地の奥には、寝屋川市 水漏れの看板に、明かりがともっていた。ぼくは、作業員をつれて、その路地に入った。まだ、なにも喋れない。だから、ぼくは、作業員を抱きしめた。職人も、ぼくを抱きかえす。「奈良で——」と、職人が言う。ぼくたちの額が触れあった。至近距離から、職人はぼくの目を見ていた。「奈良で、水漏れにまたがってるコオを見たとき、ものすごくうらやましかった。水漏れに嫉妬したの。自分でも乗りたいと思ったし、あの水漏れみたいに好かれてみたいとも思った」ぼくの喉の奥の熱いかたまりが、ますます大きくなっていく。次第に上へあがってくるみたいだ。押さえこむのに、ぼくは、懸命だった。だから、作業員をきつく抱きしめ、じっとしていた。ぼくの唇を、作業員が、さがした。